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「読売新聞」1955(昭和30)年9月12日~12月26日

 ある夕方、千代田区の大きなやしきばかりのさびしい町を、ふたりの学生服の少年が、歩いていました。大きいほうの十四、五歳の少年は、名探偵明智小五郎の少年助手として、また、少年探偵団の団長として、よく知られている小林芳雄君でした。もうひとりの少年は、少年探偵団の団員で、小学校六年生の野呂一平君という、おどけものの、おもしろい少年です。


「なにか、すばらしい事件がおこらないかなあ。怪人二十面相も、ひさしくあらわれないし、ぼく、このうでが鳴ってしかたがないよ」


 ノロちゃんは、うでをさすりながら、いいました。ノロちゃんというのは、野呂一平君の愛称なのです。


「バカだなあ、世間の人が、こわがって、さわぐのが、きみはすきなのかい」


 小林団長にたしなめられて、ノロちゃんはペロッと舌を出して、あたまをかきました。

 

 すると、そのとき、むこうの町かどから、ヒョイと、ふしぎなものがあらわれました。ロボットです。鉄でできた、ぶきみなかたちの人造人間です。そいつが、かくばったあたまをふりながら、かくばった足で、ギリギリと、歯車のおとをさせながら、むこうのほうへ歩いていくのです。

 

 おもいもよらぬところに、人造人間があらわれたのを見ると、ふたりはギョッとして、たちすくんでしまいました。

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