top of page
「小学六年生」1960(昭和35)年4月~1961(昭和36)年3月

 鉄人Qがつかまってから、ひと月ほどたったある日のこと、麹町の高級アパートにある明智探偵の事務所へ、ひとりの老紳士が、たずねてきました。

 

 ふさふさとした白いかみを、オールバックにして、白い口ひげをはやした、やせがたで、せのたかい、りっぱな老紳士です。

 

 この人は松波文学博士で、あるお金持ちがたてた古代研究所の所長なのですが、西洋の古代のことをしらべている、有名な学者でした。

 

 明智探偵は、ある会で松波博士とあったことがあるので、知りあいのあいだがらでしたが、その有名な老学者が、とつぜんたずねてきたのです。

 

 とりつぎに出た小林少年は、松波博士と聞いて、ていねいに、応接室にあんないしました。


「明智さん、わたしのつとめている古代研究所に、みょうなことがおこりましてね、きょうは、あなたのおちえをかりようとおもって、うかがったのです」


 松波博士はいすにかけると、すぐにそう口をきりました。


「みょうなことと言いますと?」


 明智がたずねますと、博士は話しはじめました。

朗読はこちらから!
乱歩朗読9.gif
bottom of page