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「少年」1958(昭和33)年1月号~12月号
第(7)章「宙を飛ぶ首」より
もう、夜の十一時をすぎていました。まだところどころに、広いあき地のある、さびしいやしき町を、火の番のおじいさんが、
「火の用心」ちょん、ちょん……。
と、拍子木をたたきながら歩いていました。
腰に、ぶらぢょうちんをさげていますが、小さなロウソクとみえて、いまにも消えそうな心ぼそい明かりです。
そこは、両がわに長い塀のつづいている、まっ暗な町でした。常夜灯も、電球がわれて消えてしまい、鼻をつままれても、わからぬほどの暗さです。
いっぽうは、コンクリートの万年塀ですが、もういっぽうは、まっ黒にぬった板塀で、いっそう、まっ暗にみえるのです。
その黒板塀の前をとおっていますと、塀の一か所が、ゆらゆらと、動くような気がしました。
火の番のじいさんは、オヤッと思って立ちどまりました。
「なんだろう?塀に小さなひらき戸がついていて、それが、風で動いたのかしら?もし、そうだったら、用心のわるいことだ。ちゃんと戸じまりをしておかなけりゃあ」
じいさんは、そう考えて、手さぐりで黒塀に近づいていきました。ちょうちんの明かりが暗いので、はっきり見えないのです。
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