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「少年クラブ」大日本雄辯會講談社、1957(昭和32)年1月号~12月号

第(16)章「幽霊のように」より

 

 少女は、ソッとかぎ穴から、のぞいてみました。かぎ穴からは部屋のいちぶしか見えませんが、そこには、だれもいないのです。ドアのうしろに、かくれているようすもありません。

 

 思いきって、ドアのとってをまわしてみました。かぎはかかっていません。そっとひらきました。一歩、部屋の中へはいりました。……部屋はからっぽでした。

 

 その部屋は、だれも住んでいない空き部屋で、すみにベッドがおいてあるだけです。少女は、そのベッドのそばへいってクッションをたたいてみたり、ベッドの下をのぞいたりしましたが、どこにも人のすがたはありません。

 

 窓には鉄ごうしがはまっています。この部屋には戸だなもありません。人のかくれる場所はまったくないのです。

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