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「少年」光文社、1957(昭和32)年1月号~12月号

第(2)章「巨人のかげ」より

 

 きょうも、井上君のおとうさんにつれられて、いっしょに映画を見せてもらった帰りに、銀座でお茶をのんで、新橋駅のほうへ歩いていたのでした。


「あらッ、ピカッと光ったね。いなずまかしら?」


 ノロちゃんが、びっくりしたように、いいました。ノロちゃんは、かみなりがきらいなので、いなずまにも、すぐ気がつくのです。

 

 しかし、いなずまにしては、なんだかへんな光りかたでした。空を見あげると、星が出ています。かみなりの音もしません。


「いなずまじゃないよ。なんだろう?」


 井上君も、ふしぎそうにあたりを見まわしています。すると、また、まっ白なひじょうに強い光が、銀座通りをかすめて、恐ろしいはやさで、サーッととおりすぎました。


「ああ、わかった。サーチライトだよ。デパートの屋上で、照らしているんだよ」


 井上君のおとうさんが、ノロちゃんを安心させるようにいいました。デパートは、もう、しまっていましたけれど、屋上からサーチライトを照らすことは、べつに、めずらしくもありません。


「アッ、また、光った。なんだか、いたずらしてるみたいですねえ」

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