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「少年」1956(昭和31)年1月号~12月号

第(9)章「黒い穴」より

 

 じいさんは、さびしい町から、さびしい町へと、どこまでも歩いていきます。もう、一キロ以上も歩きました。いくらさびしい町でも、たまには人が通ります。じいさんは、向こうからくる人のすがたを見ると、金色の人形に、おおいかぶさるようにして、それをかくしてしまうのです。三少年は、じぶんたちも、気づかれやしないかと、ビクビクしながら、ずっとうしろの方から尾行していましたが、じいさんは、ときどき、うしろをふりむくのに、なぜか少年たちに、すこしも気がつかないようです。あとになって、じいさんは、知っていて知らぬふりをしていたことがわかりましたが、そのときは、さすがの小林君も、そこまでは察しがつきませんでした。

 

 もう一キロ半も歩いたころです。じいさんが、一つの町かどをヒョイとまがって、見えなくなりました。そういうことは、いままでにも、たびたびあったのですが、こんどは、なんだか、ようすがへんでした。三少年は、驚いてかけだしました。そして、そのまがり角から、ソッとのぞいてみますと、すぐ目の前に、赤いポストが立っていて、その向こうを、あのじいさんが歩いていくのが見えました。しかし、じいさんだけではありません。もうひとりのやつが、じいさんに手をひかれて歩いているのです。少年たちは、それを見ると、ゾーッと、せなかに水をかけられたような気がしました。

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