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「少年クラブ」大日本雄辯會講談社、1956(昭和31)年1月号~12月号

第(10)章「午後十時」より

 

「もう、あと十分ですよ」


 巡査部長が、時計を見ながら、だれにともなくいいました。すると、四人の警官はもとより、園田さんも、社員も、書生も、小林君も、武夫君も、からだが、ひきしまるように感じました。いよいよ、あと十分なのです。あいつは、いったい、どんなすがたで、どこからあらわれてくるのでしょうか。

 

 警官たちの手にある五ちょうのピストルは、いつでもうてるように、用意されています。いくら魔法使いでも、この厳重な警戒の仲に、すがたをあらわすことができるのでしょうか。


「あと五分です」


 巡査部長が、すこし、ふるえ声でいいました。

 

 おおぜいいる部屋の中が、まるで、あきやのように、しいんと、しずまりかえっています。おき時計の、コチコチと秒をきざむ音が、異様にはっきり聞こえるのです。


「あと三分」


「あと二分」


「あと一分」

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