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「少年」1955(昭和30)年1月号~12月号

第(3)章「鉄の小箱」より

 

「おれは、いま、悪ものにおっかけられているんだ。これをあずかってくれ。おれの命よりもだいじなものだ。きみのうちはこの近くか?」


「エエ、すぐ近くです」
 

「それじゃ、これをきみのうちに持って帰って、うちの中のだれにもわからぬ場所へ、かくしておくのだ。この箱の中には、おそろしい秘密がふうじこんである。悪ものどもが、その秘密をぬすみだそうとして、おれを殺すかもしれない。もし、おれが死んだら、この箱は川の中へでもすててくれ。だが、おれが生きているあいだは、けっしてすてるんじゃない。きっとかえしてもらいにいくから、それまで、だれにも気づかれない場所へ、かくしておいてくれ。わかったな。おれにとっちゃ、命よりもだいじな品物だからね。いいか」

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