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「少年」光文社、1962(昭和37)年1月~12月

 玉村くんと松井くんとは、明智探偵事務所の小林少年を団長とする、少年探偵団の団員でした。ですから、ふたりはたいへんなかよしで、どこかへいくときは、たいてい、いっしょでした。

 

 その松井くんが、あるひ、学校がおわってから、玉村くんをひきとめて、校庭のすみの土手にもたれて、へんなことをいいだしました。


「玉村くん、ぼく、すっかり見ちゃったよ。きみは秘密をもっているだろう」


「秘密なんかないよ。どうしてさ」


 玉村くんは、ふしんらしく、聞きかえしました。


「きみのうちは、お金持ちだろう。お金持ちのくせに、スリなんかはたらくことはないじゃないか」


 ますます、みょうなことをいいます。


「えっ、スリだって?」


「そうだよ。ぼくはすっかり見ちゃったんだよ」


「ぼくがかい?ぼくがスリをやったって?」


 玉村くんは、びっくりしてしまいました。


「ホラ、八幡さまの石垣……。あの石垣の石が、一つだけ、ぬけるようになっているんだ。きみはその石の後ろに、からの紙入れを、たくさん、かくしたじゃないか」

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