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「少年」光文社、1960(昭和35)年1月号~12月号
少年探偵団員で、中学一年の中村くんと、有田くんと、長島くんの三人は、大のなかよしでした。
ある午後のこと、有田くんと長島くんが、中村くんの家に、遊びにきていました。
中村くんの家は港区のやしき町にある、広い洋館で、その二階の屋根の上に、三メートル四方ほどの、塔のようなへやがついていました。そのへやだけが三階になっているわけです。
中村くんは星を見るのがすきで、その塔のへやに、そうとう倍率の高い天体地上望遠鏡がそなえつけてありました。
三人はそのへやにのぼって、話をしていましたが、やがて、話にもあきて、望遠鏡をのぞきはじめました。
ひるまですから、星は見えませんが、地上のけしきが、大きく見えるのです。ずっとむこうの家が、まるでとなりのように、近く見えますし、町をあるいている人なども、おそろしいほど、すぐ目の前に見えるのです。
こんどは長島くんの番で、望遠鏡のむきをかえながら、いっしんにのぞいていましたが、やがて、東京タワーの鉄塔が、レンズの中に入ってきました。
ここからは五百メートルもはなれているのに、まるで目の前にあるように、大きく見えるのです。展望台のガラスごしに、見物の人たちの顔も、はっきりわかります。
長島くんは、むきをかえて、タワーのてっぺんに、ねらいをさだめ、だんだん下のほうへ、望遠鏡のさきを、さげていきました。
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