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「少年」光文社、1953(昭和28)年1月号~12月号
第(2)章「百万人の目撃者」より
銀座通りは、いつものように、たいへんな人通りでした。平野少年は、ウッカリすると、はぐれそうになるので、おとうさんの手を、しっかりにぎって、歩いていましたが、どういうわけか、ふと、空が見たくなりました。いま、空を見れば、きっと、なにか、ふしぎなことがあるというような、みょうな気がしたのです。それで、いままで、ショウウインドウばかり見ていた目をはなして、ヒョイと、空を見あげました。
「どうしたんだ。はやく、あるかないか」
平野君が、立ちどまってしまったものですから、おとうさんが、グッと手をひっぱって、しかるように、おっしゃるのでした。
そのときです。平野少年は、ギョッとして、心ぞうが、のどのへんまで、とびあがってくるような気がしました。
ああ、あれは、まぼろしでしょうか。ちょうど頭の上のへんの、高い高い空を、白っぽく光る、おさらのような丸いものが、ひじょうなはやさで、スーッと、飛んでいくではありませんか。
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