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「少年」光文社、1952(昭和27)年1月号~12月号

 第(11)章「赤いポスト」より

 

​ その町かどのコンクリートの塀の前に、赤い郵便ポストが立っていました。遠くの街灯のひかりが、ボンヤリと、それをてらしています。その赤いポストが、しずかに、しずかに、ジリッ、ジリッと、まわっているのです。コンクリートでできたポストが、まるで生きもののように、からだをまわしていたのです。

 

 ポストの上の方に、手紙をいれる横に長い穴があります。そのまっ黒な穴のなかから、なにかキラッと、ひかるものが見えました。目です。人間のだか、動物のだかわかりませんが、二つの大きな目が、そこから、そとをのぞいているのです。ポストを、ジリッ、ジリッとまわしながら、その二つの目が、あたりを、くまなく見まわしているのです。

 

 つぎには、もっと、きみのわるいことが、おこりました。

 

 赤いポストが、まわるだけでなくて、横にうごきだしたのです。ゆっくり、ゆっくり、まるで虫がはうように、コンクリートの塀にそって動いているのです。そして、いつのまにか、もとのばしょから、十メートルもへだたったところへ、行っていました。ポストは生きているのです。生きてあるきだしたのです。

 

 ところが、そのつぎには、もっと、もっと、おそろしいことが、おこりました。

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