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「少年クラブ 増刊」1956(昭和31)年1月15日

 少年探偵団の小林団長と、団員の中でいちばん力の強い井上一郎君と、すこしおくびょうだけれど、あいきょうものの野呂一平君の三人が、春の休みに、長野県のある温泉へ旅行しました。

 

 その温泉を、かりに矢倉温泉と名づけておきましょう。国鉄から私設鉄道にのりかえて、矢倉駅でおり、すこし山道をのぼると、そこに温泉村があります。山にかこまれた、けしきのよい温泉です。

 

 その温泉のトキワ館という旅館の主人が、井上君のおじさんなので、小林団長と野呂君をさそって、五日ほど滞在する用意でやってきたのです。

 三人がトキワ館につきますと、井上君のおじさんや、おばさんは、「よくきた、よくきた」といって、ひじょうに、かんげいしてくれました。

 

 トキワ館のそばに、岩をくんだ野天ぶろがあります。三人はまずそこへ入って、およいだり、お湯のかけっこをやったり、大はしゃぎをしたあとで、へやにもどって、おいしい夕食をたべました。

 

 そのとき、おきゅうじをしてくれたのは、よくしゃべる女中さんで、いろいろ話をしてくれましたが、そのうちに、みょうなことをいいだしたのです。


「あんたがた、少年探偵団だってね。そんならばちょうどいい。いまこの村に、おっかねえことが、おこってるだよ。おまわりさんでも、どうにもできねえような、おっかねえことがよ」


 女中さんは、いなかの人ですから、ことばがへんですが、意味がわからないほどではありません。三人の少年はそれを聞くと、にわかに、からだがシャンとしたような気がしました。じつはそういう話を、待ちかまえていたからです。

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