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心理試験

「新青年」博文館、1925(大正14)年2月
 蕗屋清一郎が、何故これから記す様な恐ろしい悪事を思立ったか、その動機については詳しいことは分らぬ。又仮令分ったとしてもこのお話には大して関係がないのだ。彼がなかば苦学見たいなことをして、ある大学に通っていた所を見ると、学資の必要に迫られたのかとも考えられる。彼は稀に見る秀才で、而も非常な勉強家だったから、学資を得る為に、つまらぬ内職に時を取られて、好きな読書や思索が十分出来ないのを残念に思っていたのは確かだ。だが、その位の理由で、人間はあんな大罪を犯すものだろうか。恐らく彼は先天的の悪人だったのかも知れない。そして、学資ばかりでなく他の様々な慾望を抑え兼ねたのかも知れない。それは兎も角、彼がそれを思いついてから、もう半年になる。その間、彼は迷いに迷い、考えに考えた揚句、結局やッつけることに決心したのだ。
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