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吸血鬼

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

 茶卓子の上にワイングラスが二個、両方とも水の様に透明な液体が八分目程ずつ入っている。

 

 それが、まるで精密な計量器で計った様に、キチンと八分目なのだ。二つのグラスは全く同形だし、それらの位置も、テーブルの中心点からの距離が、物差を当てた様に一分一厘違っていない。

 

 仮りに意地汚い子供があって、どちらのグラスを取った方が利益かと、目を大きくして見比べたとしても、彼はいつまでたっても選択が出来なかったに相違ない。

 

 二つのグラスの内容から、外形、位置に至るまでの、余りに神経質な均等が、何かしら異様な感じである。

 

 さて、このテーブルを中に挟んで、二脚の大型籐椅子が、これもまた整然と、全く対等の位置に向き合い、それに二人の男が、やっぱり人形みたいに行儀よく、キチンと腰をかけている。

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