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堀越捜査一課長殿

1956(昭和31)年4月
 警視庁捜査一課長堀越貞三郎氏は、あるひ、課長室で非常に部厚い配達証明の封書を受け取った。
 
 普通のものより一まわり大きい厚いハトロン封筒で、差出人は「大阪市福島区玉川町三丁目、花崎正敏」とあり、表面には東京警視庁の宛名を正しく書き、「堀越捜査一課長殿、必親展」となっていた。なかなかしっかりした書体なので、よくある投書にしても、軽視は出来ないように感じられた。堀越課長は封筒の表と裏をよくあらためた上で、ペンナイフで封を切ったが、そのとき、「わざわざ東京へ送ってよこしたのは、東京警視庁管内に関係のある事柄だな」と考えた。しかし、思い出して見ても、花崎正敏という人物には、全く心当りがなかった。
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