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毒草

「探偵文藝」奎運社、1926(大正15)年1月
 よく晴れた秋の一日であった。仲のよい友達が訪ねて来て、一しきり話がはずんだあとで、

「気持のいい天気じゃないか。どうだ、そこいらを少し歩こうか」ということになって、私とその友達とは、私の家は場末にあったので、近くの広っぱへと散歩に出掛けたことであった。
 
 雑草の生い茂った広っぱには、昼間でも秋の虫がチロチロと鳴いていた。草の中を一尺ばかりの小川が流れていたりした。所々には小高い丘もあった。私達はとある丘の中腹に腰をおろして、一点の雲もなくすみ渡っている空を眺めたり、或は又、すぐ足の下に流れている、溝の様な小川や、その岸に生えているさまざまの、見れば見る程、無数の種類の、小さい雑草を眺めたり、そして「アア秋だなあ」とため息をついて見たり、長い間一つ所にじっとしていたものである。
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