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踊る一寸法師
「新青年」博文館、1926(大正15)年1月
「オイ、緑さん、何をぼんやりしてるんだな。ここへ来て、お前も一杯御相伴にあずかんねえ」
肉襦袢の上に、紫繻子に金糸でふち取りをした猿股をはいた男が、鏡を抜いた酒樽の前に立ちはだかって、妙に優しい声で言った。
その調子が、何となく意味あり気だったので、酒に気をとられていた、一座の男女が一斉に緑さんの方を見た。
舞台の隅の、丸太の柱によりかかって、遠くの方から同僚達の酒宴の様子を眺めていた一寸法師の緑さんは、そう言われると、いつもの通り、さもさも好人物らしく、大きな口を曲げて、ニヤニヤと笑った。
「おらあ、酒は駄目なんだよ」
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