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木馬は廻る

「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号
「ここはお国を何百里、離れて遠き満洲の……」

 ガラガラ、ゴットン、ガラガラ、ゴットン、回転木馬は回るのだ。
 今年五十幾歳の格二郎は、好きからなったラッパ吹きで、昔はそれでも、郷里の町の活動館の花形音楽師だったのが、やがてはやり出した管絃楽というものに、けおされて、「ここはお国」や「風と波と」では、一向雇い手がなく、遂には披露目やの、徒歩楽隊となり下がって、十幾年の長の年月を荒い浮世の波風に洗われながら、日にち毎日、道行く人の嘲笑の的となって、でも、好きなラッパが離されず、仮令離そうと思ったところで、外にたつきの道とてはなく、一つは好きの道、一つは仕様事なしの、楽隊暮しを続けているのだった。
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