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鏡地獄
「大衆文芸」1926(大正15)年10月
「珍しい話をとおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」
ある時、五六人の者が、怖い話や、珍奇な話を、次々と語り合っていた時、友達のKが、最後にこんな風に始めた。本当にあったことか、Kの作り話なのか、其の後たずねて見たこともないので、私には分からぬけれど、タネ々不思議な物語を聞かされたあとだったのと、丁度その日の天候が、春も終りに近い頃の、いやにドンヨリと曇った日で、空気が、まるで深い海の底の様に、重々しく淀んで、話すものも、聞くものも、何となく狂気めいた気分になっていたからでもあったのか、その話は、異様に私の心をうったのである。話というのは…………
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