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盗難

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年5月15日
 暫くしますと、しゃべりたいだけしゃべってしまった巡査は、ふと気がついた様に私の顔を見ながらいうのです。

「ア、もう十二時半だね。それ見給え、あれはやっぱりいたずらだったな」

 そうなると私もいささか恥かしく、

「エエ、お蔭様で」とか何とかあいまいに答えたのですが、すると巡査が金庫の方を見て、

「で、金はたしかにその中には入っているのだろうね」

 と妙なことを聞くではありませんか。私はからかわれた様な気がして、いささかむっとしたものですから、

「無論這入ってますよ。なんならお目にかけましょうか」

 と皮肉にいいかえしたものです。

「イヤ、這入っていればいいがね。念のために一応調べておいた方がいいかも知れないよ。ハハハハハ」

 と先方もあくまでからかって来ます。私はもうしゃくに触って仕様がないものですから、

「御覧なさい」
 
 といいながら、金庫の文字合せを回してそれを開き、中のさつ束を取出して見せました。すると巡査がね、

「なる程、そこですっかり安心してしまった訳だね」
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