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黒手組

「新青年」博文館、1925(大正14)年3月

 またしても明智小五郎の手柄話です。

 

 それは、私が明智と知合になってから一年程たった時分の出来事なのですが、事件に一種劇的な色彩があって中々面白かったばかりでなく、それが私の身内のものの家庭を中心にして行われたという点で、私には一層忘れ難いのです。

 

 この事件で、私は、明智に暗号解読のすばらしい才能のあることを発見しました。読者諸君の興味の為に、彼の解いた暗号文というのを先ず冒頭に掲げて置きましょうか。
 

一度お伺いしたい/\と存じながらつい
好い折がなく失礼ばかり致して居ります
割合にお暖かな日がつゞきますのね是非
此頃にお邪魔させていただきますわ扨日
外は×つまらぬ品物をお贈りしました処御
叮嚀なお礼を頂き痛み入りますあの手提
袋は実はわたくしがつれ/″\のすさびに
自ら×拙い刺繡をしました物で却ってお
叱りを受けるかと心配したほどですのよ
歌の方は近頃はいかが?時節柄御身お大
切に遊ばして下さいまし   さよなら

 

 これはある葉書の文面です。忠実に原文通り記して置きました。文字を抹消したところから各行の字詰に至るまですべて原文のままです。

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