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目羅博士
1931(昭和6)年4月
私は探偵小説の筋を考える為に、方々をぶらつくことがあるが、東京を離れない場合は、大抵行先が決っている。浅草公園、花やしき、上野の博物館、同じく動物園、隅田川の乗合蒸汽、両国の国技館。。(あの丸屋根が往年のパノラマ館を連想させ、私をひきつける)。今もその国技館の「お化け大会」という奴を見て帰った所だ。久しぶりで「八幡の藪しらず」をくぐって、子供の時分の懐しい思出に耽ることが出来た。
ところで、お話は、やっぱりその、原稿の催促がきびしくて、家にいたたまらず、一週間ばかり東京市内をぶらついていた時、あるひ、上野の動物園で、ふと妙な人物に出合ったことから始まるのだ。
もう夕方で、閉館時間が迫って来て、見物達は大抵帰ってしまい、館内はひっそり閑と静まり返っていた。
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