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黒蜥蜴

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。

 帝都最大の殷賑地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色に染めたるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。

 G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種に取ってはまことにあっけなく、併し帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、ほとんど人通りが途絶えてしまうのだが、それと引き違いに、背中合せの暗黒街が賑い始め、午前二時三時頃までも、男女の飽くなき享楽児共が、窓を閉した建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨと蠢きつづける。

 今も言うあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のような真暗な建物の中に、桁はずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高調に達していた。
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