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二銭銅貨

「新青年」博文館、1923(大正12)年4月
「あの泥坊が羨しい」二人の間にこんな言葉が交される程、其頃は窮迫していた。

 場末の貧弱な下駄屋の二階の、ただ一間しかない六畳に、一閑張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり逞しゅうして、ゴロゴロしていた頃のお話である。

 もう何もかも行詰って了って、動きの取れなかった二人は、丁度その頃世間を騒がせた大泥坊の、巧みなやり口を羨む様な、さもしい心持になっていた。
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