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魔術師

1930(昭和5)年7月~
第(4)章「真赤な猫」より

 こんな真夜中、仮令誰にもせよ笛を吹いているなんて変だ。「空耳かしら、いやいや確かに横笛の音だ。しかも、叔父さんの寝室に間違いはない。若しや……」と思うと、二郎はちりけに氷でも当てられた様に、ゾッと身がすくんだ。

​ やがて、笛の音はパッタリやんだ。もういくら耳をすましても、聞えては来ぬ。二郎はいきなり、隣のベッドの巡査をゆり起した。

「どうもおかしいことがあるんです。僕と一緒に下へ降りて見てくれませんか」
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