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暗黒星

1939(昭和14)年1月~

第6章「塔上の怪」より

 

 目を凝らすと、窓からの、ほの明りを受けて、その窓のそばに、幽霊のような白いものが、スーッと突っ立っていた。幽かに身動きしている。オヤッ、もしかしたら、あれは洋装の女性ではないのか?


 と思う内に、ほの白い影が、やや大きく身動きしたかと思うと、その胸のあたりから、パッと光が湧いた。その光が窓のガラスに反射して、室内が俄かに明るくなった。

 

 それは白衣の婦人であった。襞の多い、白っぽい絹の洋装をした若い女性であった。胸の辺に手提電灯を掲げて、その光線を窓の外へ向けている。彼女が身動きする度に、強い光がチロチロ動いて、洋装の腕や胸の辺をかすめ、影絵のように、若々しい肉体の一部が透き通って見える。

 

 こちらからは後姿しか見えないのだが、ふと気がつくと、窓ガラスに、反射光を受けた彼女の半身が、ぼんやりと映っていた。そして、明智探偵は、そこに思わずアッと叫びそうになる程意外なものを見たのである。

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